「検査では異常がないと言われたのに、どうして身長が低いの?」
「成長ホルモンが足りないわけではないなら、治療はできないの?」
お子さんが「特発性低身長(ISS)」と説明されたとき、
保護者の方の中には、このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか?
✍️ 特発性低身長(ISS)
英語でIdiopathic Short Statureと呼ばれ、ISSと略されます。
簡単に言うと、明らかな病気や成長ホルモン異常などが見つからないにも関わらず、年齢や性別から見て身長が低い状態を指します。
今回は、Inzaghiらの総説論文をもとに、
「特発性低身長とは何か」、「どのように診断されるのか」、
そして「現在どのような治療が検討されているのか」についてわかりやすく整理します。
【1. 今回紹介する論文について】
今回取り上げるのは、Inzaghi、Reiter、Cianfaraniらが発表した総説論文です。
この論文では、ISSについて次のような点が整理されています。
▶︎ ISSの定義
▶︎ ISSの原因として考えられる遺伝的要因
▶︎ 診断の進め方
▶︎ 成長ホルモン治療を含む治療選択肢
▶︎ 現時点で分かっていること・まだ分かっていないこと
つまり、 ISSを単に「原因不明の低身長」として捉えるのではなく、
“なぜ原因が見つかりにくいのか”、“どこまで検査を行うべきなのか”、
そして今後どのような治療の可能性が考えられるのかを整理した論文です。
【2. ISSは「除外診断」として考えられる】
この論文でまず重要なのは、ISSが除外診断であると説明されている点です。
✍️ 除外診断とは?
考えられる病気や異常を一つずつ確認し、それらが当てはまらない場合に残る診断のこと
低身長の原因には、たとえば次のようなものがあります。
🔸 成長ホルモン分泌不全
🔸 甲状腺機能低下症などの内分泌疾患
🔸 慢性疾患や栄養障害
🔸 染色体異常
🔸 骨の病気・骨格異常
🔸 出生時から小さく生まれた影響
🔸 思春期の進み方の個人差
そのため、ISSと診断する前には、
✅ 成長曲線
✅ 骨年齢
✅ 体のバランス
✅ 出生時の情報
✅ 家族歴
✅ 血液検査
などから総合的に確認する必要があります。
Inzaghiらは、ISSには正常な成長のバリエーションだけでなく、
現在の一般的な検査では見つけにくい遺伝的要因や、従来の診断では見つかりにくい骨や軟骨の発達特性などが含まれている可能性を指摘しています。
つまり、ISSは、「原因がまったくない低身長」ではなく、
「現時点では原因を一つに特定しきれない低身長」と考えると理解しやすいでしょう。
【3. 「原因不明」でも、少しずつ分かってきていること】
ここまでで、ISSは「原因を特定しきれない低身長」と説明できます。
しかし、それは「何も分かっていない」という意味ではありません。
近年の研究では、ISSとされてきた子どもの中にも、
成長に関わる体質的・遺伝的な要因が隠れている可能性があることが分かってきました。
例えば、論文では次のような要因が関係する可能性が紹介されています。
🔸 成長ホルモンやIGF-1に対する反応性の違い
🔸 骨が伸びる部分である「成長板(骨端線)」の働き
🔸 生まれ持った遺伝的な体質
🔸 骨・軟骨の発達の違い
成長ホルモンの分泌量が正常でも、
「体の中でそのホルモンを受け取る力」や、「骨が反応する力」には個人差があります。
また、骨や軟骨の発達に関わる小さな違いが、身長の伸び方に影響している場合もあります。
このような研究の進歩により、これまでISSとひとまとめにされていた低身長の中にも、
さまざまな背景が含まれている可能性が考えられるようになってきました。
【4. ISSには治療法があるのか】
ISSは成長ホルモン分泌不全ではないため、
「成長ホルモンが足りないから補う」という考え方だけで説明できるものではありません。
一方で、ISSに対する成長ホルモン治療については多くの研究が行われており、アメリカなど一部の国ではISSに対する成長ホルモン治療が承認されています。
論文では、成長ホルモン治療によって成人身長の改善が報告されていることが紹介されています。
具体的に論文内で紹介されている解析では、成長ホルモン治療を受けたISSの子どもは、治療を受けていない子どもと比べて、成人身長が約4cm高かったと報告されています。
⚠️ ただし、あくまで複数の研究をまとめた平均的な結果であり、すべてのお子さんに同じ効果が出るという意味ではありません。
これは、ISSが一つの病気ではなく、様々な背景を持つ子どもたちを含んだ「不均一な集団」であるためです。
そのため、ISSに対する成長ホルモン治療では、「ISSだから一律に治療する」というよりも、
骨年齢、成長速度、家族性、思春期の進み方、検査所見などを踏まえた上で、
治療によって、「その子にどの程度の身長改善が期待できるかを個別に判断すること」が重要です。
【5. 成長ホルモン以外にも研究されている治療法】
この論文では、成長ホルモン以外の様々な治療法の研究についても整理されています。
代表的なものとして、次のような治療が紹介されています。
▶︎ GnRHアゴニスト:思春期の進行を一時的に抑える治療
▶︎ 成長ホルモン+GnRHアゴニスト
▶︎ アロマターゼ阻害薬:骨年齢の進行を抑える目的で研究されている薬
▶︎ 成長ホルモン+アロマターゼ阻害薬
▶︎ IGF-1治療:成長ホルモンの働きの先にあるIGF-1を補う治療
⚠️ これらの治療は、それぞれ異なる仕組みで身長の伸びをサポートすることを目的としていますが、すべてのISSの子どもに標準的に行われるものではありません。
たとえば、GnRHアゴニストは、”思春期の進行を抑えることで成長期間を伸ばすこと”を目指す治療です。
また、アロマターゼ阻害薬は、
“骨年齢の進み方に関わるホルモンの働きに着目し、成長の残り時間をできるだけ保つこと”を目的に研究されています。
一部の研究では成人身長や予測身長の改善が報告されていますが、結果にはばらつきがあり、どの治療法がどのような子どもに適しているのかについては、現在も研究が続けられています。
つまり、ISSの治療では、単に治療を追加すればよいというわけではなく、
骨年齢、思春期の進み方、予測身長、治療の目的、安全性などを総合的に評価しながら、一人ひとりに合わせて検討していくことが重要です。

【6. まとめ】ISSは「原因不明の低身長」ではなく、“まだ見えにくい低身長”
特発性低身長(ISS)は、
明らかな病気や成長ホルモン異常が見つからないにもかかわらず、身長が低い状態を指します。
しかし近年の研究では、ISSと診断される子どもの中にも、成長ホルモンやIGF-1の反応性、骨や軟骨の発達の違い、遺伝的な要因などが関係している可能性が少しずつ分かってきています。
そのためISSは、「原因がまったくない低身長」ではなく、
「現在の検査では一つの原因に特定できない低身長」と考える方が実態に近いのかもしれません。
また、ISSに対しては成長ホルモン治療を中心に、思春期の進み方や骨年齢に応じたさまざまな治療が検討されることがあります。
ただし、どの治療が必要か、どれくらい効果が期待できるかは、お子さま一人ひとりで異なります。
だからこそ大切なのは、専門的な検査を受け、お子さまの成長の背景を正しく評価することです。
当院では、成長曲線や骨年齢、骨端線の状態、IGF-1やホルモン値などを総合的に確認し、お子さまに合わせた治療プランをご提案しています。
「検査では異常がないと言われたけれど、身長が気になる」
「ISSと言われたけれど、何ができるのか知りたい」
そう感じた方は、ぜひ一度ご相談ください。
お子さまの “成長の可能性” を一緒に確認していきましょう。
当院の身長相談の予約はこちら↓
参考文献
Inzaghi E, Reiter E, Cianfarani S. (2019). The Challenge of Defining and Investigating the Causes of Idiopathic Short Stature and Finding an Effective Therapy. Horm Res Paediatr, 92(2), 71-83. doi:10.1159/000502901

