思春期コントロール治療とは?「初潮が始まると背が伸びない」「声変わりがあると身長が止まる」は本当?プリモボランとリュープロレリンの違いを解説

【思春期コントロール治療ってなに?】

──「初潮が始まると背が伸びない?」「声変わりがあると身長が止まる」に応える2つの選択肢をわかりやすく解説

「最近、うちの子、思春期が始まってる…?」
それ、“身長が伸びる時間”が減ってきているサインかもしれません。
今回は、当院の身長治療における、「思春期コントロール治療」をわかりやすく解説します。

 

「最近、胸がふくらんできたかも…」「声変わりが始まったかもしれない」
思春期のサインに気づいたとき、多くの親御さんが心配されるのが、“身長はまだ伸びるのか?” ということではないでしょうか。

実は、思春期の進行と身長の伸びには深い関係があります。
思春期が進むと、骨の成長を止める“スイッチ”が入り、「骨端線」と呼ばれる骨の成長部分が閉じ始めてしまうのです。

こうした理由から、近年は「思春期の進行を一時的にコントロールする治療」への関心が高まっています。

今回は、自由診療でも選択されることのある「思春期コントロール治療」について、そしてその代表的な薬剤であるプリモボランとリュープロレリンの違いを、わかりやすく解説していきます。

 

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【1. 成長ホルモン治療とセットで考える「時間の確保」】

よくある誤解ですが、成長ホルモンを打てばどんな年齢でも身長が伸びるわけではありません。
成長ホルモンはあくまで「伸びる準備が整っている骨(=骨端線が開いている状態の骨)」に作用するものです。

この骨端線は、思春期が進行することで徐々に閉じ、閉じてしまうともうそれ以上身長は伸びにくくなります(Satoh & Hasegawa, 2022)。
そのため、「今はまだ伸びる余地があるけど、思春期が始まりかけている…」という場合には、思春期の進行そのものを一時的にコントロールする治療=“思春期コントロール治療”が検討されます。

 

【2. その「思春期」を止めるってどういうこと?】

思春期は、脳の視床下部という部位から「ゴナドトロピン放出ホルモン:GnRH」が分泌されることから始まります。分泌されたGnRHは脳の下垂体前葉という部位を刺激し、「性腺刺激ホルモン(黄体形成ホルモン:LH、卵胞刺激ホルモン:FSH)」が分泌されます。性腺刺激ホルモンは卵巣や精巣に働きかけ、そこからエストロゲンやテストステロンといった性ホルモンが出るようになることで、身体の大人化(二次性徴)が進んでいきます。この過程で骨端線は閉鎖し、身長の伸びは停止するとされています(岡, 2015)。

骨端線の閉鎖には性差があり、ある研究では、女児では12歳から骨端線の閉鎖が始まり、16歳までに全員が閉鎖しており、男児では14歳から閉鎖が始まり、19歳までに全員が閉鎖していたと報告されています(Crowder & Austin, 2005)。

この一連の流れに緩やかなブレーキをかけるのが、「思春期コントロール治療」の目的です。

 

【3. 思春期をコントロールする2つの薬】

では、実際にどのような薬が使われるのでしょうか?
代表的なものが、次の2つです。

▶リュープロレリン―医学的に「思春期抑制」の効果が認められた薬

✅特徴

思春期を一時的に止める薬として、エビデンスが豊富な薬剤がリュープロレリン(有効成分:リュープロレリン酢酸塩)です。「中枢性思春期早発症」等に対する保険適用薬ですが、自由診療では思春期の進行を一時的に抑えて、骨端線の閉鎖を遅らせる目的で使われることがあります。

✅使用方法

通常、4週に1回の皮下注射

✅先行研究

性ホルモン分泌の抑制によって骨年齢の進行を抑え、成長期間を延ばす効果が確認されています。副作用は軽度なものが多く、治療の安全性も高いと報告されています(Valenzise et al., 2023)。

✅副作用

・ほてり、熱感、のぼせ、肩こりなど

・関節痛や骨疼痛など

※まれに間質性肺炎、アナフィラキシー、肝機能障害などの重篤な副作用の報告もありますが、ほとんど心配の必要はありません。

 

▶プリモボラン―思春期の進行を“ゆるやかに整える”サポート薬

✅特徴

プリモボラン(有効成分:メテノロン酢酸エステル)は、生体内蛋白合成を促す薬で、本来は骨粗鬆症などに対して骨の成長等を促す目的で使用されています。矛盾しているかのように思えますが、自由診療では、思春期が早めに進んでいるお子さんに対し、その進行をゆるやかに整える目的で使用されることもあります。

✅使用方法

通常、1日2~3回に分けて経口投与

✅先行研究

成長ホルモン単独で治療を受けた群と、プリモボランを併用した群では、最終身長に明確な差が見られ、特に男性では成長ホルモン単独の群の平均身長が164.6cmであったのに対して、プリモボランを併用した群の平均身長は168.5cmと、約4cmの有意な差があったことが報告されています。また、思春期中の身長の伸びも、併用群では平均で6cm以上多かったことが確認されています(田中ら, 2024)。

✅副作用

・AST上昇、ALT上昇といった肝機能障害

・悪心、嘔吐といった胃腸障害

・嗄声、多毛、月経異常など(女性)

・ざ瘡、陰茎肥大など(男性)

※まれに肝機能障害などの重篤な副作用の報告もあります。検査結果の数値を細かく解析しながら治療を進めるため、副作用リスクを最小限に抑えるよう努めています。

✍補足

嗄声:声がかすれたり、ガラガラしたりすることです。

ざ瘡:一般に「ニキビ」と呼ばれる皮膚疾患のことです。

 

❗どちらをどのように使うかは、お子さんの思春期の進行スピード、骨年齢、体格、性別などをもとに医師が判断します。

 

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【4. 注意点:思春期を止めればいい、ではない】

思春期をただ“止めればいい”ということではありません。
性ホルモンは、骨の成熟・筋肉の発達・精神面の安定にも関わる(Herting & Sowell, 2017)ため、治療の開始・中止タイミングは極めて重要です。

また、スポーツのために身長を伸ばしたいという目的がある場合でも、医師による適切な評価が必要です。
過度な期待や一律的な判断ではなく、「この子は今どんな状態なのか?」をしっかり見極めることが大切です。

 

【5. まとめ】

成長ホルモン治療が「身長を伸ばすスピード」を助けるものだとすれば、
思春期コントロール治療は「伸びる“時間”を確保する」ためのアプローチです。

今しかない“成長のチャンス”を無駄にしないためにも、早めに気づいて適切な評価を受けることが、将来の選択肢を広げることに繋がるかもしれません。

「このまま思春期が進んでいいのか?」
「まだ背が伸びる余地はあるのか?」

気になる方は、ぜひ一度ご相談ください!

 

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[参考文献]

・Satoh, M., & Hasegawa, Y. (2022). Factors affecting prepubertal and pubertal bone age progression. Frontiers in endocrinology, 13, 967711. https://doi.org/10.3389/fendo.2022.967711

・岡成人(編). (2015). 系統看護学講座 専門分野Ⅱ 内分泌・代謝 成人看護学⑥ (第14版). 医学書院.

・Crowder, C., & Austin, D. (2005). Age ranges of epiphyseal fusion in the distal tibia and fibula of contemporary males and females. Journal of forensic sciences, 50(5), 1001–1007.

・Valenzise, M., Nasso, C., Scarfone, A., Rottura, M., Cafarella, G., Pallio, G., Visalli, G., Di Prima, E., Nasso, E., Squadrito, V., Wasniewska, M., Irrera, P., Arcoraci, V., & Squadrito, F. (2023). Leuprolide and triptorelin treatment in children with idiopathic central precocious puberty: an efficacy/tolerability comparison study. Frontiers in pediatrics, 11, 1170025. https://doi.org/10.3389/fped.2023.1170025

・田中敏章, 曽根田瞬, 野瀬宰, 仲野由季子, 今日進, 清水貴士, 石津桂, 村下眞理, 徳田正邦, 野末裕紀, 佐藤直子, 谷澤隆邦, 前寛, 窪田和興, 荒木久美子, 北中幸子, 木下英一, 宮河真一郎, 猪股弘明, & 岸健太郎. (2024). 成長ホルモン分泌不全性低身長症の成人身長:2022年調査. Journal of Japanese Association for Human Auxology, 30(2).

・Herting, M. M., & Sowell, E. R. (2017). Puberty and structural brain development in humans. Frontiers in Neuroendocrinology, 44, 122–137. https://doi.org/10.1016/j.yfrne.2016.12.003

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