2025.08.26
2026.04.15
お子さんの身長のことで調べれば調べるほど、
「単独治療」だけでなく、「いくつかを組み合わせた併用治療」の話も目にすると思います。
結論から言うと、
一方で、すべての子どもにフルセットの治療が必要なわけではありません。
今回の記事では、
✅ 成長ホルモン治療
✅ 思春期コントロール治療
✅ 栄養補充療法(サプリメント治療)
この3つの役割と、「どんな組み合わせが考えられるのか」を分かりやすく解説していきます。
まずは、多くの方が耳にする「成長ホルモン治療」から。
成長ホルモンは、脳の下垂体から分泌され、肝臓などでIGF-1という物質をつくり出し、それが「骨端線」と呼ばれる部分に働きかけることで、骨が縦方向に伸びるようサポートします [医療情報科学研究所, 2011]。
成長ホルモン治療は、このホルモンを注射で補うことで、
🔶 体内で足りていない分を補充する
🔶 成長ピークの時期に「伸びるスピード」をサポートする
といった役割を果たします。
研究でも、条件を満たした子どもに対しては、
およそ3年半~5年の治療で平均8.6~9.5cm程度、最終身長が高くなる傾向があると報告されています [Sotos Tokar, 2014]。
ただし、成長ホルモンはあくまで、
「まだ伸びる準備が整っている骨」に対して働くエンジンです。
骨端線がほとんど閉じてしまっている場合には、どれだけエンジンをふかしても伸びにくい、という限界もあります。
そこで登場するのが、「思春期コントロール治療」です。
思春期が進むと、
⚫︎ 女の子では胸がふくらみ、月経が始まる
⚫︎ 男の子では声変わりや筋肉の発達が進む
と同時に、性ホルモンの働きにより、骨端線がだんだんと閉じていきます [Torres-Santiago Mauras, 2024]。
つまり、思春期のスピードが速いほど、“背が伸びる期間”が短くなるとも言えます。
思春期コントロール治療では、
⚫︎ リュープリンのように思春期の進行を一時的に止める薬
⚫︎ プリモボランのように、思春期の進み方をやや穏やかに整える薬
などを用いて、骨端線が閉じるタイミングを少し遅らせ、「成長の猶予期間」をつくることを狙います [Cho, Jung, Shim, 2024]。
特に、
✅ 同年代の子どもたちと比べて明らかに思春期が早い
✅ 骨年齢が実年齢よりかなり進んでいる
といった場合には、成長ホルモンだけでなく、
「成長の猶予期間を守る治療」とセットで考えることが大切になります。
3つ目は、栄養補充療法(サプリメント治療)です。
アミノ酸・ビタミンD・亜鉛・鉄分など、成長や骨の発達に関わる栄養素は多く、食事だけでは不足しがちな場合に、サプリメントを用いることがあります。
ただし、サプリメントはあくまで
🔶 不足している栄養を補う
🔶 治療が働きやすい土台を整える
という役割であり、
成長ホルモンや思春期コントロール治療の“代わり”になるものではありません。
また、睡眠・運動・食事といった生活習慣も、成長ホルモンの分泌そのものに影響すると言われています [Kawai, ほか, 2024; Jenkins, 1999; Caputo, ほか, 2021]。
✅ 夜ふかしが続く
✅ 運動量が極端に少ない
✅ バランスの良い食事をとることができていない
こうした状況では、どれだけ治療をしても効果が十分に出にくくなる可能性があります。
サプリメントと生活習慣は、
「エンジン(成長ホルモン)とブレーキ(思春期コントロール)がきちんと働ける環境づくり」
と考えると分かりやすいかもしれません。
ここまで見てきたように、
🔶 成長ホルモン治療:伸びる“スピード”を上げる
🔶 思春期コントロール治療:伸びる“時間”を延ばす
🔶 栄養補充療法(サプリメント治療):その“土台”を支える
という役割があります。実際の治療では、次のような組み合わせが検討されることがあります。
✅ 骨端線がまだ十分に開いている
✅ 思春期の始まりも標準的なタイミング
✅栄養状態や生活習慣も比較的整っている
といった場合には、成長ホルモン治療だけで十分な効果が得られるケースも多くあります [Isojima, Hasegawa, Yokoya, Tanaka, 2017]。
✅ 思春期のスタートが早い
✅ 骨年齢の進みが速い
✅ 「このままだと将来の予測身長が低めで止まりそう」という評価が出ている
といった場合には、
「スピード」と「時間」の両方にアプローチするために、併用療法が検討されることがあります。
実際に、思春期早期の女児を対象とした研究では、約4年間の併用治療で最終身長が、治療を受けなかった群より平均6.6cm高くなったという報告もされています [Dotremont, ほか, 2023]。
また、思春期早期の段階で身長が低い男児に対して併用治療を取り入れることで、治療を受けなかった子どもと比べて最終身長が5~8cmほど高くなったとするデータもあります [Tanaka, Naiki, Horikawa, 2012]。
一方で、骨年齢が15歳前後まで進んだ思春期終盤になると、同様の治療を行っても追加の身長増加はほとんど見込めないとする報告もあり、骨端線がまだ十分に開いている、思春期前~中期に始める方が効果的と考えられています [Whitelaw, 1969]。
✅ 栄養状態や生活リズムにやや課題がある
✅ 血液検査で特定の栄養不足が見つかっている
といった場合には、
成長ホルモン治療に加えて、サプリメントや生活習慣の見直しを行うことで、治療効果をより安定させる狙いがあります。
特に鉄と亜鉛は、成長ホルモンと深く関わる栄養素です。
亜鉛が不足すると、IGF-1やIGFBP-3といった、「成長ホルモンの“働きの指標”となる物質」が低くなり、補充によって改善することが報告されています [Hamza, Hamed, Sallam, 2012]。
また、亜鉛は成長ホルモンが受容体に結合して働く過程などにも関わるとされており、不足した状態では「成長ホルモンが効きにくい」土台になってしまう可能性があります。
鉄についても、思春期の成長スパートや月経の開始により必要量が大きく増え、鉄欠乏性貧血があると成長やホルモンバランスに悪影響が出ることが知られています。
さらに、成長ホルモン治療を行うと血液量や造血が活発になり、鉄の需要が高まりやすいとする報告もあります [Vihervuori, Sipilä, Siimes, 1994]。
このため、思春期+成長ホルモン治療という「成長が加速している状態」では、鉄・亜鉛の不足がないかを血液検査で確認し、不足があれば食事やサプリメントで補っていくことが大切になります。
✅ 思春期がかなり早いが、成長ホルモンまでは希望していない
✅ まずは成長の「時間」を確保したい
✅ 栄養状態や生活リズムにやや課題がある
といった場合には、
思春期コントロール治療に、必要に応じた栄養補助(サプリメント)や生活習慣の改善を組み合わせるという選択肢もあり得ます。
⚫︎ 将来の予測身長がより高くなる可能性がある
⚫︎ 「時間」と「スピード」の両方にアプローチできる
⚫︎ 成長のチャンスを逃しにくくなる
といったメリットが期待されています。
一方で、併用療法には、次のような注意点もあります。
⚫︎ 費用や通院の負担が大きくなる
⚫︎ それぞれの薬に固有の副作用リスクがある
⚫︎ 「もっと伸ばしたい」という気持ちが強すぎると、必要以上の治療を選んでしまう可能性がある
さらに、スポーツをされている場合には、成長ホルモンの使用が競技によってドーピング規定の対象となる可能性があります。
ただし、治療として行う成長ホルモン補充は体内に長く残るものではなく、未成年期に行った治療が将来にわたってドーピングとして影響するケースは稀と考えられます。
(詳細は当院へご相談ください)
併用療法は、
✅ 成長ホルモン治療
✅ 思春期コントロール治療
✅ 栄養補充療法(サプリメント治療)+生活習慣
といったそれぞれの役割を、その子に合わせて掛け合わせることで、成長のチャンスを最大限に活かすための選択肢です。
ただし、
⚫︎ 必ずしもすべての子に必要なわけではないこと
⚫︎ 組み合わせれば必ず大きく伸びる、という魔法の治療ではないこと
も、同じくらい大切なポイントです。
そのためにはまずは、現在の身長や成長曲線、骨端線の状態、思春期の進み具合、栄養状態(鉄・亜鉛など)、生活習慣といった医学的な情報をしっかりと確認することが欠かせません。
当院では、これらの専門検査とこれまでの治療経験をもとに、
「どの治療を」
「どのタイミングで」
「どのくらい組み合わせるのか」
を一人ひとりのお子さんに合わせてオーダーメイドでご提案しています。
「うちの子の場合は、どこまで治療した方がいいの?」と感じられた方は、できるだけ早いタイミングで一度ご相談いただき、成長の状態を一緒に確認していきましょう。
当院の身長相談のご予約はこちら↓
[参照文献]
AlbaneseA, KewleyG D , Long A , PearlK N , Robins D G , Stanhope R . (1994). Oral treatment for constitutional delay of growth and puberty in boys: a randomised trial of an anabolic steroid or testosterone undecanoate. Arch Dis Child, 71(4), 315-317. doi:https://doi.org/10.1136/adc.71.4.315
CaputoMarina , PigniStella , AgostiEmanuela, DaffaraTommaso , FerreroAlice, FilighedduNicoletta , ProdamFlavia. (2021). Regulation of GH and GH Signaling by Nutrients. Cells, 10(6), 1376.
doi:https://doi.org/10.3390/cells10061376
ChoJa Hyang, JungHae Woon , ShimKye Shik. (2024). Growth plate closure and therapeutic interventions. Clinical and Experimental Pediatrics, 67(11), 553-559.
doi:https://doi.org/10.3345/cep.2023.00346
DotremontHilde , FranceAnnick , HeinrichsClaudine , TenoutasseSylvie , BrachetCécile , CoolsMartine , . . . den BrinkerMarieke . (2023). Efficacy and safety of a 4-year combination therapy of growth hormone and gonadotropin-releasing hormone analogue in pubertal girls with short predicted adult height. Frontiers in Endocrinology, 14, 113750. doi:https://doi.org/10.3389/fendo.2023.1113750
HamzaRasha T , HamedAmira I , SallamMahmoud T . (2012). Effect of zinc supplementation on growth hormone-insulin growth factor axis in short Egyptian children with zinc deficiency. Ital J Pediatr, 38, 21.
doi:https://doi.org/10.1186/1824-7288-38-21
IsojimaTsuyoshi, HasegawaTomonobu, YokoyaSusumu, TanakaToshiaki. (2017). The response to growth hormone treatment in prepubertal. Endocrine Journal, 64(9), 851-858.
doi:https://doi.org/10.1507/endocrj.EJ17-0063
JenkinsPaul J. (1999). Growth hormone and exercise. Clinical Endocrinology, 50, 683-689.
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KawaiMasanobu, BabaSachiko, TanigawaKanami, IkeharaSatoyo, KawasakiRyo, IsoHiroyasu. (2024). Association of Nighttime Sleep Duration at 1.5 Years With Height at 3 Years: The Japan Environment and Children’s Study. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 110(6), e1866-e1873.
doi:https://doi.org/10.1210/clinem/dgae647
SotosFJuan, TokarJNaomi. (2014). Growth hormone significantly increases the adult height of children with idiopathic short stature: comparison of subgroups and benefit. International journal of pediatric endocrinology, 1(15).
doi:https://doi.org/10.1186/1687-9856-2014-15
TanakaToshiaki , NaikiYasuhiro, HorikawaReiko. (2012). Combined Treatment with Gonadotropin-releasing Hormone Analog and Anabolic Steroid Hormone Increased Pubertal Height Gain and Adult Height in Boys with Early Puberty for Height. Clinical Pediatric Endocrinology, 21(2), 35-43.
doi:https://doi.org/10.1297/cpe.21.35
Torres-SantiagoLournaris, MaurasNelly. (2024). Approach to the Peripubertal Patient With Short Stature. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 109(7), e1522-e1533.
doi:https://doi.org/10.1210/clinem/dgae011
U.S. Anti-Doping Agency. (n.d.年n.d.月n.d.日). 参照先: Growth hormone in sport: What athletes should know: https://www.usada.org/spirit-of-sport/growth-hormone-what-athletes-should-know/
VihervuoriElina , SipiläIlkka , SiimesMartti A . (1994). Increases in hemoglobin concentration and iron needs in response to growth hormone treatment. The Journal of Pediatrics, 125(2), 242-245.
doi:https://doi.org/10.1016/s0022-3476(94)70203-9
WhitelawM James. (1969). EFFECTS ON GROWTH OF STEROIDS IN THE PREPUBERTAL CHILD. Acta Endocrinologica, 61(1), S98.
doi:https://doi.org/10.1530/acta.0.061S098
医療情報科学研究所. (2011). 病気が見える vol.3: 糖尿病・代謝・内分泌 (第 2 版). 東京: メディックメディア.
2025.08.26
2025.09.12