2025.09.11
「成長ホルモン治療」と聞くと、「病気の子だけが対象」と思われがちです。
でも、最近では健康で元気なお子さんでも、「もう少し身長を伸ばしたい」「スポーツで身長が武器になるから伸ばしたい」と思うご家庭に向けて、自由診療としての成長ホルモン治療が注目されています。
本記事では、「なぜ成長ホルモンで身長が伸びるのか?」という基本から、「いつ成長ホルモン治療を始めるべきなのか」「どんな子が成長ホルモン治療の対象になるのか」まで、丁寧に解説していきます。
成長ホルモンとは、脳の下垂体という場所から分泌されるホルモンです。
このホルモンが分泌されると、肝臓などでIGF-1(インスリン様成長因子Ⅰ;ソマトメジンC)という物質が作られ、それが「骨端線」と呼ばれる骨の成長部分に働きかけることで、骨が縦に伸び、身長が伸びていきます(医療情報科学研究所, 2011)。
この「骨端線」は、思春期を過ぎると閉じてしまい、それ以降は基本的に身長が伸びなくなるため、このタイミングを逃さず、成長ホルモンを使って「骨の成長を促す」ことが治療の基本となります。

結論から言えば、「すべての子どもに必ず効果がある」とは限りません。
ただし、科学的なメカニズムに基づき、適切なタイミングと方法で行えば、「ほぼ確実に、身長の伸びが強まる」と言えます。
特に、成長期の段階で骨端線がまだ開いている場合、体内の成長ホルモンやIGF-1の量が少ない子どもに対して投与を行うと、およそ3年半~5年で平均8.6〜9.5cm程度、最終身長が高くなる傾向があるというデータがあります(Sotos & Tokar, 2014)。
もちろん、個人差はありますが、適切な条件下では、このような身長増加の報告もされています。
🔶当院でも、治療効果を安定して得るために、最低半年以上、特に1~2年間の継続的な治療を推奨しております。短期間の投与では十分な効果が得られにくいことがあるため、医師と相談しながら、無理のないペースでの継続をおすすめしています。
また実際にご受診いただければ、治療しない場合と、治療を実施する場合での比較や治療効果について、詳細にお伝えをしています。
→このご質問はよく保護者様からいただくものですが、極端に言えば、「可能な限り早く治療開始することが望ましい」と言えます。
◆治療効果の観点
治療効果としては、骨端線の開きが小さくなってくるタイミング(12~13歳頃)や、骨端線閉鎖ギリギリのタイミング(13~14歳以降)で行うよりも、骨端線ができるだけ開いているタイミングで行う方が高く見込めます。
また、骨端線の閉鎖には性ホルモンの働きが関連していますが、性ホルモンの分泌が始まる前(いわゆる、思春期前)の段階で治療開始していただくと、性ホルモンの影響なく骨の伸びを強めることが期待できますので、早めの受診をお勧めしています。
◆治療費用の観点
治療費用に対しての治療効果のパフォーマンスの観点でも、早めが望ましいと考えています。
同じ効果を目指す上でも、体重が軽い状態と重い状態では、必要なお薬の投与量が変わります。(体重が重い方が、多量の薬を必要とします)
そのため、同じ治療効果を目指すための治療費用も、開始タイミングが早い方がコストパフォーマンスが高いと言えるでしょう。
はい、できます。
本来、成長ホルモンの治療は「成長ホルモン分泌不全症」などの病的な低身長を対象とした「保険診療」として行われてきました。
しかし現在では、「平均より少し低め」「将来の身長が不安」「スポーツでの成長を考慮したい」といった子どもたちに対しても、自由診療という形で治療を提供する医療機関が増えています。
これを「“非病原性低身長”に対する自由診療」と呼び、医学的には「低身長症」とは診断されない子どもに対しても、医師の判断のもと、安全性に配慮した成長ホルモン投与が可能となっています。
自由診療での成長ホルモン治療では、「病気かどうか」に関係なく、以下のような「伸びる可能性がどの程度あるか」が重点的に評価されます。
✅骨端線がまだ開いているかどうか
✅骨年齢と実年齢の差
✅成長曲線の傾向(身長の位置や年間成長率)
✍補足
骨端線が閉鎖すると、縦方向の骨の成長は終了します。成長ホルモン治療の効果を得るには、骨端線が閉鎖する前に治療を始めることが重要であるとされています(Cho et al., 2024)。
また、骨年齢が実年齢よりも遅れている場合、骨の成熟が遅く、今後さらに成長する可能性があると判断されます。そのため、骨年齢と実年齢の差も、治療の効果を見極める重要な指標とされています(Cohen et al., 2008)。
明確な診断名がなくても、まずは一度カウンセリングや検査で現状を把握し、今後の成長の可能性を評価することが大切です。「まだ成長できるの?」「治療の必要はあるの?」を判断するためにも、ぜひお気軽にご相談ください。
自由診療での成長ホルモン治療は、次のような流れで行われます。
基本的に、成長ホルモン治療は比較的安全性が高いとされていますが、次のような副作用が報告されることもあります。
✅発熱
✅注射部位の痛み・赤み
✅一時的なむくみや関節の違和感
✅筋肉痛
✅まれに、頭痛・高IGF-1血症・骨の成長痛 など。
これらは臨床現場でも比較的よく知られている副作用であり、一部は研究報告でも確認されています(Souza & Collett, 2011)。
ただし、専門医のもとで定期的に検査を行い、慎重に管理することで多くは防げるものです。
成長ホルモン治療は、「病気の子」だけのものではありません。
「もう少し背が伸びてほしい」「将来を見据えて今のうちにできることを」と願うご家庭にも、自由診療という形で、安心して検討できる選択肢が用意されています。
もちろん、すべての子に万能ではなく、十分な評価と継続的なモニタリングが必要です。
でも、「病気じゃないから」「成長は体質だから仕方ない」とあきらめてしまう前に、まずは一度、当院にご相談ください。
成長のチャンスは、今この時期だからこそ掴めるもの。
その一歩が、未来の選択肢を大きく広げてくれるかもしれません。
[参考文献]
・医療情報科学研究所(編). (2011). 病気がみえる vol.3: 糖尿病・代謝・内分泌(第2版). メディックメディア.
・Sotos, J. F., & Tokar, N. J. (2014). Growth hormone significantly increases the adult height of children with idiopathic short stature: comparison of subgroups and benefit. International journal of pediatric endocrinology, 2014(1), 15.
https://doi.org/10.1186/1687-9856-2014-15
・Cho, J. H., Jung, H. W., & Shim, K. S. (2024). Growth plate closure and therapeutic interventions. Clinical and experimental pediatrics, 67(11), 553–559. https://doi.org/10.3345/cep.2023.00346
・Cohen, P., Rogol, A. D., Deal, C. L., Saenger, P., Reiter, E. O., Ross, J. L., Chernausek, S. D., Savage, M. O., & Wit, J. M. (2008). Consensus statement on the diagnosis and treatment of children with idiopathic short stature: A summary of the Growth Hormone Research Society, the Lawson Wilkins Pediatric Endocrine Society, and the European Society for Paediatric Endocrinology Workshop. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 93(11), 4210–4217.
https://doi.org/10.1210/jc.2008-0509
・Souza, F. M., & Collett-Solberg, P. F. (2011). Adverse effects of growth hormone replacement therapy in children. Arquivos brasileiros de endocrinologia e metabologia, 55(8), 559–565.
https://doi.org/10.1590/s0004-27302011000800009
・U.S. Anti-Doping Agency. (n.d.). Growth hormone in sport: What athletes should know. USADA.
https://www.usada.org/spirit-of-sport/growth-hormone-what-athletes-should-know/
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