【成長ホルモン治療で身長はどれくらい伸びる?】  ──論文から読み解く“効果の幅”と“個人差”

2026.05.13

【成長ホルモン治療で身長はどれくらい伸びる?】   ──論文から読み解く“効果の幅”と“個人差”

「成長ホルモン治療をすると、実際どれくらい身長が伸びるの?」 

 

お子さんの身長治療を考える保護者の方にとって、これは最も気になる疑問のひとつではないでしょうか。 

 

インターネット上では、

「平均〇cm伸びる」
「通常より〇cm高くなる」

といった表現を見かけることがあります。

もちろん、こうした平均値は治療を考えるうえで大切な目安になります。 

 

しかし、成長ホルモン治療の効果は、すべてのお子さんに同じように出るわけではありません。

治療を始める年齢、骨年齢、思春期の進み方、遺伝的背景、そして投与量などによって、結果には大きな幅があります。 

 

今回は、特発性低身長の子どもに対する成長ホルモン治療の効果を検討した論文をもとに、

「どれくらい伸びるのか」だけでなく、
「なぜ結果に差が出るのか」「その数字をどう受け止めればよいのか」

をわかりやすく解説します。 

 

【1. 今回紹介する論文について】 

今回取り上げるのは、SotosとTokarが2014年に発表した、
特発性低身長の子どもに対する成長ホルモン治療の効果を検討した論文です。 

特発性低身長とは? 

特発性低身長とは、明らかな病気やホルモン分泌不全がないにもかかわらず、年齢や性別から見て身長が低い状態を指します。 

 

この研究の概要は、以下の通りです。 

🔷 対象

特発性低身長と診断された子ども123名 

🔷 主な分析対象

そのうち、成人身長またはそれに近い時期まで追跡できた88名 

男児:68名、女児:20名 

🔷 治療開始年齢

4.7~16歳 [ 平均では男児11.9歳、女児12.0歳 ]

🔷 治療内容

成長ホルモンを平均0.32±0.03mg/kg/週で投与 (週あたりの総投与量)

🔷 比較対象

過去の研究における未治療の子ども305名 

🔷 研究の目的

成長ホルモン治療によって、成人身長がどの程度改善するのかを検討すること 

 

【2. 論文ではどれくらい身長が伸びたのか】 

この論文では、成長ホルモン治療を受けた子どもたちは、成長がほぼ終わる時期には、
平均として、同年代の正常範囲に近い到達していました。

実際の平均最終身長は、男児で171.86cm、女児で159.68cmと報告されています。 

また、未治療の子どもたちと比較すると、治療前から最終身長までの改善幅は、

男児で約9.5cm女児で約8.6cm大きいという結果でした。 

この結果だけを見ると、「成長ホルモン治療をすれば8〜10cm伸びる」と受け止めたくなるかもしれません。 

しかし、ここで大切なのは、これはあくまで研究集団全体で見た平均的な結果だということです。

すべてのお子さんが同じように8cm、9cm伸びるという意味ではありません。 

むしろ、この論文で注目すべきなのは、「平均値」だけではなく、「効果に大きな幅がある」という点です。 

 

【3. 成長ホルモン治療の効果には個人差がある】 

この研究で特に大切なのは、成長ホルモン治療は一定の効果が期待できる一方で、
伸び方には大きな個人差があるという点です。 

治療を受けた子どもたちは、全体としては治療開始時よりも同年代の中での身長の位置づけが大きく改善していました

論文では「SDS」という専門的な指標でこの差を示しており、治療開始時から最終身長までの改善幅は平均で+1.90 SDSでした

一方で、その範囲は+0.29〜+4.13 SDSと広く示されています。 

つまり、実際の改善の幅には大きなばらつきがあり、比較的小さい改善にとどまったケースから、大きく改善したケースまで幅広く存在していました。 

そのため、成長ホルモン治療では「平均で何cm伸びるか」だけでなく、

「その子の場合、どのくらい伸びる可能性があるか」を個別に評価することが重要です。 

   

【4. 効果を左右する要因①:週あたりの総投与量】 

この論文で特に重要なポイントのひとつが、成長ホルモンの「投与量」です。 

成長ホルモン治療の効果は、「注射を何回打ったか」だけで決まるものではありません。

一定期間にどれだけの量を投与できているか、つまり週あたり、あるいは月あたりの総投与量が重要になります。 

過去の研究では、0.16〜0.26mg/kg/週程度の比較的低い投与量では、成人身長の改善が4cm未満にとどまることが多いとされています [Deodati & Cianfarani, 2011; Kelnar, 2012]。

一方で、0.32〜0.4mg/kg/週程度の高めの投与量では、7〜8cm以上の効果が報告されている [McCaughey et al., 1998; Wit et al., 2002]と整理されています。 

今回の研究でも、0.32±0.03mg/kg/週という投与量で、未治療群と比較して、男児9.5cm、女児8.6cmという差が示されました。 

このことから、成長ホルモン治療では、単に「毎日打っているかどうか」だけではなく、
その子の体格や状態に応じて、
「一定期間あたりの総投与量」を適切に設計することが大切だと考えられます。 

※ 当院でも、毎日投与を基本としながら、1か月あたりの総投与量やお子さまの体格、成長段階を考慮して治療設計を行っています。 

 

【5. 効果を左右する要因②: 遺伝的背景(家族性・非家族性)  

もうひとつ、この論文で重要なのが、「家族性低身長」と「非家族性低身長」の違いです。 

同じ特発性低身長でも、「家族性低身長」と「非家族性低身長」では、
治療後の
最終身長や、改善の幅に違いが出る可能性があります。

✍️
家族性低身長:両親の身長も低めで、家族全体として小柄な傾向があるタイプ
非家族性低身長:両親の身長から考えると、本来はもう少し身長が伸びる余地があると考えられるタイプ

 

この研究では、非家族性低身長の子どもの方が、家族性低身長の子どもよりも、
最終身長や、治療開始時から最終身長までの改善幅が大きい結果となっています。
 

ただし、これは「家族性低身長では治療が効かない」という意味ではありません。

家族性低身長の子どもでも、治療開始時と比べて身長の改善は見られています。 

つまり、成長ホルモン治療を検討する際は、
「その子本人の現在の身長」だけでなく、ご両親の身長や、その子がもともと持っている成長の特徴なども含めて
“どの程度の改善が期待できるのか”総合的に考えていくことが大切です。 

 

【6. 安全性とモニタリングも大切】 

この論文では、治療中に重大な有害事象は報告されず、IGF-1の値も多くは思春期段階に応じた範囲内だったとされています。 

一方で、成長ホルモン治療は、体の成長に関わるホルモンを補う治療です。

そのため、治療中は定期的に身長の伸び方を確認するだけでなく、 IGF-1や栄養状態、肝機能・腎機能などの全身状態などもチェックしながら進めることが大切です。 

論文で安全性が示されているからといって、すべてのお子さんに同じように当てはまるわけではありません。

医師の管理のもとで、効果と安全性を確認しながら、投与量や治療期間を調整していく必要があります。 

IGF-1とは? 

IGF-1は、成長ホルモンの働きによって主に肝臓などで作られる物質です。骨端線に働きかけて、骨が縦に伸びることを助けます。血液中の値は、成長ホルモンが体の中でどのくらい作用しているかを確認する目安にもなります。 

 

【7. まとめ】平均値ではなく、“その子の可能性”を見る 

成長ホルモン治療によって、最終身長の改善が期待できることは、複数の研究で示されています。 

今回紹介した論文でも、一定量以上の成長ホルモン治療を受けた特発性低身長の子どもでは、未治療の子どもと比べて、最終身長に明らかな差が見られました。 

しかし、その効果は一律ではありません。

投与量、治療期間、骨年齢、思春期の進み方、遺伝的背景などによって、結果には大きな差が出ます。

だからこそ、「平均〇cm伸びる」という数字だけで判断するのではなく、
お子さん一人ひとりの成長の特徴や条件を踏まえ、「その子にとってどの程度の改善が期待できるのか」を個別に見ていくことが大切です。

その中には、治療における投与量設計も含まれており、適切かつ十分な量で治療を行うことも結果に影響する重要な要素のひとつです。 

当院では、成長曲線、骨年齢、ホルモン値、栄養状態などを総合的に評価し、一人ひとりに合わせた治療プランをご提案しています。 

 

「うちの子の場合、どれくらい伸びる可能性があるの?」

と気になる方は、まずは一度ご相談ください。 “その子自身の成長の可能性”を一緒に確認していきましょう。 

 

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[ 参考文献 ] 

Deodati, A., & Cianfarani, S. (2011). Impact of growth hormone therapy on adult height of children with idiopathic short stature: systematic review. BMJ.
doi: https://doi.org/10.1136/bmj.c7157
 

Kelnar, C. J. (2012). Growth hormone for short children–whom should we be treating and why? The journal of the Royal College of Physicians of Edinburgh, 42(1), 32-33.
doi: https://doi.org/10.4997/JRCPE.2012.108
 

McCaughey, E. S., Mulligan, J., Voss, L. D., & Betts, P. R. (1998). Randomised trial of growth hormone in short normal girls. Lancet, 351(9107), 940–944.
doi: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(05)60604-6
 

Sotos, J. F., & Tokar, N. J. (2014). Growth hormone significantly increases the adult height of children with idiopathic short stature: comparison of subgroups and benefit. International journal of pediatric endocrinology, 2014(1), 15.
doi: https://doi.org/10.1186/1687-9856-2014-15
 

Wit, J. M., Rekers-Mombarg, L. T., & Dutch Growth Hormone Advisory Group. (2002). Final height gain by GH therapy in children with idiopathic short stature is dose dependent. The Journal of clinical endocrinology and metabolism, 87(2), 604–611.
doi: https://doi.org/10.1210/jcem.87.2.8225
 

 

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