自身に変形性膝関節症の疑いがある方や、家族に変形性膝関節症を患っている方はいませんか。
変形性膝関節症はひざの違和感や痛みを伴う傷病の一つであり、加齢のみならず誰にでも起こりうる病気です。
また、変形性膝関節症を患うと、治療やリハビリが必要になるケースが大半です。
とくにリハビリの中でおこなわれるストレッチやトレーニング、いわゆる運動療法は変形性膝関節症の治療に欠かせないものです。
本記事では、変形性膝関節症に効果のあるストレッチ方法について詳しく解説します。
また、運動療法の目的や、おすすめのトレーニングについても併せて紹介します。
変形性膝関節症を治療中の方、家族が変形性膝関節症の方は、ぜひ参考にしてください。
変形性膝関節症とは?
変形性膝関節症は、ひざに生じる病気の一つです。まずは、変形性膝関節症の基本的な情報について、詳しく解説します。
変形性膝関節症はひざの病気の一つ
ひざの病気の一つである変形性膝関節症は、ひざの軟骨に小さな傷が生じることで始まります。
日常生活でひざを使う動作をおこなうと、ひざの関節や軟骨に負担がかかり、小さな傷は徐々に擦り減ったり範囲が広がったりします。
傷が広がると痛みが増すほか、関節や軟骨の変形をもたらすケースもあります。関節や軟骨が変形すると、O脚やX脚の症状が目立ちはじめます。
悪化すると痛みのみならずひざの可動域が縮小するため、ひざの曲げ伸ばしが困難になります。
最終的には、正座や階段昇降のみならず、日常動作に欠かせない歩行動作にも支障をきたす病気です。
中高年や女性に多い
変形性膝関節症は、中高年や女性に多い疾患でもあります。日常動作の中で無意識のうちにひざには負担がかかっています。
ひざへの負担は年齢とともに増えますが、反対にひざを支える筋肉や骨は衰えていきます。
そのため、長年負担がかかり続けたひざに生じた傷により、変形性膝関節症を発症する方には中高年が多いです。
また、変形性膝関節症状が比較的男性よりも女性に多い原因は、筋肉量の違いによる影響があると考えられています。
女性は元々、男性よりも筋肉量が少ないため、ひざを支える筋肉も必然的に少なくなります。
そのため、女性は男性よりも自身でひざを支え辛く、変形性関節症を引き起こすきっかけが生まれるケースが多いと考えられています。
また、諸説ありますが、ハイヒールを履くことによる負担やホルモンバランスの影響なども女性の変形性関節症の原因であると捉えられています。
ただし、変形性関節症は中高年や女性にのみ発症するわけではありません。
厚生労働省によると、日本における変形性膝関節症の患者数は約1,000万人と推定されています(参照元:介護予防の推進に向けた運動器疾患対策についての報告書)。
また、自覚症状がない潜在的な患者数を含めた場合、変形性膝関節症の推定患者数は約3,000万人にものぼると考えられています。
すなわち、人口の約4分の1が変形性膝関節症を患っている推定になり、とくに50代以降の方に限定すると2人に1人が発症している計算になります。
そのため、加齢や性別による発症のしやすさはあるものの、変形性膝関節症は基本的に誰にでも起こりうる病気と言えるでしょう。
変形性膝関節症における運動療法の目的
変形性膝関節症の診断を受けた際に運動療法を提示された方や、トレーニングやストレッチの効果に関する情報を見聞きしたことがある方もいるでしょう。
運動療法は、医学的にも根拠が証明されている治療法の一つです。
ここでは、変形性膝関節症における運動療法の目的について解説します。
ひざ症状の悪化による運動不足を解消
変形性膝関節症における運動療法には、ひざ症状の悪化による運動不足を解消する目的があります。
変形性膝関節症に現れやすい症状が、ひざの痛みです。
ひざに痛みが生じると、痛みを恐れて足を動かさなくなり、外出を控えたり軽い運動をやめてしまったりします。
ひざを動かさなくなると、ひざを支える筋力が低下し、ひざの関節へはより強い負担がかかってしまいます。
また、安静を優先して運動不足に陥った結果、肥満につながるケースもあります。
体重増加によりひざへの負担はさらに高まるため、症状の悪化や悪循環につながります。
そのため、変形性膝関節症の治療に運動療法を取り入れることで、慢性的な運動不足を解消する必要があります。
適度な運動によるひざ症状の改善
変形性膝関節症における運動療法には、適度な運動によってひざ症状を改善する目的もあります。
トレーニングではひざを支えている筋肉を鍛えられ、ストレッチでは狭まってしまったひざの可動域を広げられます。
また、緩やかなトレーニングやストレッチにより血行が促進されるのみならず、運動不足による肥満を防げるプラスの効果にも期待が持てます。
変形性膝関節症におけるストレッチの効果
変形性膝関節症の運動療法では、ストレッチが用いられるケースが大半です。
ここでは、変形性膝関節症におけるストレッチの効果を3つ紹介します。
ひざの負担を軽減させる
まず、ひざのストレッチをおこなうことで、ひざへの負担を軽減させる効果があります。
変形性膝関節症の症状を緩和させるためには、ひざを支える筋肉の強化が必要です。
ひざの周りにはひざへの負担を吸収するための筋肉が存在しており、クッションのような役割を担っています。
とくに太腿の前側に位置している大腿四頭筋はひざを支える重要な筋肉です。
そのため、ストレッチやトレーニングでは大腿四頭筋の重点的な強化を目指します。
ひざ周りの筋肉を鍛えることで、ひざへの負担を減らし、最終的には痛みの改善にもつながります。
ひざの関節可動域を広げられる
また、ひざのストレッチをおこなうことで、ひざの関節可動域を広げられます。
変形性関節症を患うと、ひざの関節や軟骨のみならず、ひざの曲げ伸ばしに関与する靭帯や関節膜が凝り固まり、拘縮と呼ばれる可動域制限に陥ります。
加えてひざの痛みが生じている場合、痛みによりひざを動かせない状態が続き、ひざの可動域はより狭まってしまいます。
ひざの可動域制限により、しゃがむ、正座をする動作が億劫になるほか、最終的には日常生活に欠かせない動作すら困難になります。
そのため、ストレッチにより凝り固まった部位をほぐし、ひざの可動域を広げることは重要です。
ひざの関節を安定させる
また、ひざのストレッチには、ひざの関節を安定させる効果もあります。
変形性膝関節症により、片方のひざに症状が現れることで、両足のバランスが不安定になるケースがあります。
ひざの関節が不安定になると、歩き出す際に痛みが生じたり、歩くときにバランスを保てなくなったりします。
そのため、ストレッチによりひざや腰回りを動かし、体のバランスを維持しましょう。
とくに歩行時に影響を及ぼすひざや骨盤を鍛えることで、両ひざの安定にもつなげられます。
変形性膝関節症の方が意識したい大腿四頭筋
ひざに関係する筋肉はさまざまですが、とくに大腿四頭筋の影響は大きく、ひざへの負担を吸収する役割を持っています。
そのため、変形性膝関節症の症状を改善するためには、大腿四頭筋の重点的な強化が必要です。
ここでは、大腿四頭筋の役割について詳しく紹介します。
大腿四頭筋はひざの関節を支えている
大腿四頭筋は、ひざの上側に位置する太腿に存在している筋肉です。
名前にもあるとおり、大腿四頭筋は大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋の4つの筋肉で構成されており、体の中でもとくに大きな筋肉としてひざを支えています。
大腿四頭筋は股関節の曲げ伸ばしに大きく関わるほか、ひざを伸ばす動きにも関与しています。
大腿四頭筋が弱まるとひざの痛みにつながる
大腿四頭筋はひざへの負担を吸収する、いわゆるクッションのような緩衝材の役割を持ちます。
そのため、大腿四頭筋が弱まったり衰えたりすると、ひざに負担が集中してしまい、最終的にひざの痛みにつながります。
大腿四頭筋を意識した運動療法がおすすめ
変形性膝関節症の場合、ひざを支え、ひざを伸ばす筋肉である大腿四頭筋を意識した運動療法が有効です。
大腿四頭筋の強化は、結果としてひざへの負担軽減にもつながります。
そのため、運動療法におけるストレッチやトレーニングでは、とくに大腿四頭筋の強化を重点的におこないましょう。
変形性膝関節症におすすめのトレーニングとストレッチ方法
変形性膝関節症の運動療法には、主にひざや筋肉の強化や筋肉自体を柔らげるためのトレーニングやストレッチがおこなわれます。
ここからは、変形性膝関節症におすすめのトレーニングとストレッチ方法を紹介します。
筋力トレーニング
まずは、ひざの動きに関与する大腿四頭筋、骨盤の動きに関与する中臀筋を鍛えるトレーニングについて紹介します。
大腿四頭筋を鍛えるトレーニング
大腿四頭筋は太ももの前側に位置しており、ひざを支える重要な筋肉です。大腿四頭筋を鍛えると、身体の動きによるひざへの負担を軽減できます。
はじめに、寝転んだままおこなえるトレーニングを紹介します。
- 仰向けに寝転がります
- 片方のひざを曲げ、伸ばしている方の足をゆっくりと持ち上げましょう
- 持ち上げる位置は曲げているひざと同じくらいの角度が目安です
- また、なるべくかかとを押し出すようにしてください(余裕のある方は、足を上げる高さを低くして、負荷をかけるのもおすすめです)
- 足を持ち上げた状態で5秒間キープし、それからゆっくりと下ろしましょう
左右の足について、それぞれ10回程度繰り返すと効果的です。
上記のトレーニングについては、椅子に座った状態でもおこなえます。
- 椅子に浅く座り、前屈みの姿勢をとります
- ひざを伸ばした状態で、かかとを床につけたまま片方の足を前に出しましょう
- 足を伸ばしたまま、かかとを床から持ち上げ、5秒間キープします
- 足を床から持ち上げる位置は10センチ程度が目安です
- 5秒間キープできれば、足をゆっくりと床に戻します
少し休憩を挟んだ後、それぞれの足で10回程度繰り返します。
左右の足について、10回を1セットとし、1日に3セット程度おこなうと効果的です。
最後に、クッションを使ったトレーニングを紹介します。
- 足を伸ばして床に座り、体の後ろに両手をつきましょう
- 右ひざの下にクッションを敷き、左のひざを曲げて立たせます
- 敷いているクッションを押しつぶすように、右の太腿に力を入れましょう
- ある程度クッションがつぶれたら、5秒間キープします
ここまでの流れを10回繰り返し、完了後は左足も同様にトレーニングしてください。
左右の足について、10回を1セットとし、1日に3セット程度おこなうと効果的です。
大腿四頭筋を鍛えるトレーニングのみでも、方法は3種類あります。
いずれも室内でおこなえるトレーニングであるため、自身の身体に最も負担が掛からない方法を選び、実施してみてください。
中臀筋を鍛えるトレーニング
中臀筋は、臀部とも呼ばれるお尻の横に位置している筋肉であり、骨盤を安定させる役割を担っています。
中臀筋が衰えてしまうと、歩行時や階段昇降時に身体がぶれ、歩き方が不安定になります。
バランスが取れていない歩行により、ひざへの負担が増大し、変形性膝関節症の症状も悪化しやすくなります。
トレーニングにより中臀筋を鍛えて骨盤を安定させることで、ひざへの負担を軽減できます。
中臀筋を鍛えるトレーニングは、横向きに寝た姿勢でおこないます。
- 身体の側面を床につけた状態でまっすぐに横たわりましょう
- 床についている側の足を軽く曲げ、上側の足をゆっくりと持ち上げます
- 足を高く上げすぎると腰に負担がかかるため、中臀筋に効いている感覚を覚えた高さで止めましょう
※上半身が後方に傾くと、中臀筋ではない部分に負荷がかかってしまうため、床に対して身体が垂直になるよう意識してください - 足を持ち上げた状態で5秒間キープし、ゆっくりと下ろします。
左右の足について、それぞれ10回程度繰り返すと効果的です。
ひざのストレッチ
次に、ひざのストレッチについて、大腿四頭筋を伸ばす方法、ひざの痛みを解消する方法を順番に紹介します。
大腿四頭筋を伸ばすストレッチ
- 壁に片手をついた状態で真っ直ぐに立ちます
- 片方のひざを曲げ、つま先を掴み、お尻へと引き寄せます
- 太腿が伸びている感覚があれば、そのまま30秒程度キープします
- 息を止めてしまいがちですが、息を吐きながら体勢を維持しましょう
- もう片方の足でも同じストレッチをおこなってください
左右の足について、それぞれ3回程度繰り返すと効果的です。
ひざの痛みを解消するストレッチ
- 仰向けに寝転がります
- 次に片方のひざを曲げ、そのまま胸元へ引き寄せましょう
- 手で足を引き寄せるのではなく、足の力を使って引き寄せてください
- ひざを引き寄せた状態で5秒間キープし、それからゆっくりと下ろしましょう。
左右の足について、それぞれ5回程度繰り返すと効果的です。
変形性膝関節症のストレッチに関するよくある質問
ここでは、変形性膝関節症のストレッチに関するよくある質問について項目ごとに解説していきます。
ストレッチによりひざの痛みは悪化しないの?
ストレッチの方法や過度なストレッチにより、ひざの痛みが悪化するケースもあります。
また、変形性膝関節症の症状の進行により、これまで支障なくおこなっていたストレッチにおいても痛みが生じる場合もあります。
ひざの痛みが増していたり、痛みの程度が強くなったりした場合には、ストレッチを中止して医療機関で診療を受けましょう。
重度の変形性膝関節症でもストレッチは必要?
変形性膝関節症の症状が重度の場合、ひざの曲げ伸ばしが困難な状態が考えられます。
ひざが曲がらない場合、ひざのストレッチは難しいですが、可動域内で無理のない曲げ伸ばしをおこなうことも大切です。
ただし、自己判断でのストレッチは危険性を伴うため、一度通院している医療機関への相談をおすすめします。
早く治すためにストレッチ回数を増やしてもよい?
変形性膝関節症の治療過程でストレッチの実施は大切ですが、過度なストレッチはひざへの負担にもつながるため注意が必要です。
とくにひざの曲げ伸ばしを必要とするスクワットは、しゃがんで立ち上がる動作の際にひざを痛めるケースもあります。
ストレッチ回数を増やす場合は無理のない程度におこない、ひざの動作に勢いがつかないよう注意しましょう。
また、ストレッチの頻度については医療機関へ一度相談してみてください。
痛みが強くストレッチが続けられない場合は?
ひざの痛みが強い場合、無理なストレッチの継続はおこなわない方が無難です。
ストレッチにより変形性膝関節症の症状を悪化させないためにも、まずは一度かかりつけの医療機関に相談してみましょう。
また、ひざの痛みや腫れのみならず、血圧が高い場合にも過度なストレッチは危険です。
ひざ症状や自身の体質に不安のある方は、医師に相談したうえでストレッチに取り組んでください。
ストレッチと並行して運動をしても大丈夫?
ひざに痛みや違和感がない場合は、ストレッチとともに運動をおこなっても問題はないと考えられます。
ただし、ここでいう運動は軽度な運動をさします。
そのため、思い切り走ったり、ジャンプやターンなどをおこなったりするのは、ひざへのリスクが高いためやめておきましょう。
運動量を増やしたい場合には、日頃の運動療法でおこなっているストレッチやトレーニングと同程度の内容を増やすことをおすすめします。
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まとめ
今回紹介したように、変形性膝関節症はひざへの傷が原因となって引き起こされる疾患であり、加齢や性別などが発症のしやすさに関わっています。
変形性膝関節症の治療には運動療法が用いられており、ひざを支える筋肉を鍛えたり、凝り固まった筋肉や骨をほぐしたりすることで、ひざへの負担を軽減する目的があります。
運動療法におけるストレッチやトレーニングは自宅でおこなえる方法が大半です。
そのため、ひざに負担がかからない程度の強さと頻度で運動療法をおこない、ひざの可動域を回復させましょう。
また、ひざの調子がよいといっても、ストレッチや運動を自己判断で実施するのは大変危険です。
適切なストレッチをおこなうためにも、まずは医療機関に相談したうえでの実施をおすすめします。
※本記事の情報は2023年1月時点のものです。
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