高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)は変形性膝関節症の治療法の1つで、変形した関節を人工関節に変える人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)と異なり膝関節を温存できるため、スポーツや農業などにも復帰できる場合がある治療法です。
変形性膝関節症は5人に1人が罹患しているといわれるほどポピュラーな病気で、男性よりも女性の方が多く発症するといわれています。
本記事では高位脛骨骨切り術について、種類や費用、メリット、デメリットなどを詳しく解説します。
併せて治療の流れや注意点なども解説しているため、変形性膝関節症を発症している方や治療法に興味がある方はぜひ参考にしてください。
高位脛骨骨切り術の種類
高位脛骨骨切り術は、O脚に変形した足の脛(すね)の骨を切り、太ももと脛骨の軸を変えて膝関節の変形している部分への負担を減らす手術です。
人工関節置換術と異なり膝関節が温存されるメリットがありますが、靱帯を損傷している方や骨粗しょう症(こつそしょうしょう)の方、X脚の方は受けられません。
靱帯を損傷しているとひざの状態が不安定になり、高位脛骨骨切り術を受けても症状が改善しない場合があるからです。
骨粗しょう症の場合は骨がもろいため、骨を切った部分が接着しなかったり接着に時間がかかったりします。
また、高位脛骨骨切り術は初期から中期の方が対象で、中期以降の方は手術を受けられないため早めの受診が大切です。
高位脛骨骨切り術には、次の2つの種類があります。
- オープンウェッジ法
- クローズドウェッジ法
オープンウェッジ法
脛骨の内側から外に向けて骨を切り、開いた箇所に人工骨を入れて金属で固定し、脚の変形を防ぐ手術方法です。埋め込まれた人工骨は、2〜3年で自身の骨に置換されます。
手術時間が短く手術する範囲も少ない、手術後4週間ほどで安定した歩行ができるようになる、などのメリットがあるため近年では主流の方法です。
ただし、デメリットとして、矯正する角度が小さい場合にのみ適用される点が挙げられます。
クローズドウェッジ法
クローズドウェッジ法はハイブリッドクローズドウェッジ法とも呼ばれています。
脛骨の外側からくさび状に骨を切り取り、切り取った部分をプレートで固定する方法です。
オープンウェッジ法では対応できない大きい角度を矯正できる、膝蓋(しつがい)、大腿関節症を合併した場合でも対応できる、などのメリットがあります。
ただし、脛骨の側にある腓骨(ひこつ)の一部分も切除する必要があり、オープンウェッジ法よりも身体の負担が大きくなりやすい点がデメリットです。
高位脛骨骨切り術の費用
高位脛骨骨切り術を受けるためには、入院、手術、リハビリテーションが必要です。手術にかかる費用は保険の有無や症状、入院した期間などにより異なります。
ここでは、一般的に高位脛骨骨切り術にかかる費用を紹介します。
手術の平均費用
高位脛骨骨切り術の手術費用は150万円前後です。保険が適用されるため、3割負担の方は約45万円、1割負担の方は約15万円で受けられます。
入院費用は、さらに差額ベッド代や食事代が上乗せされます。病院により費用が異なるため手術を受ける前によく確認し、見積書を出してもらいましょう。
ただし、1か月に支払う医療費は限度額が定められています。
年齢や年収に応じて限度額は異なりますが、限度額を超えた場合は超えた分の金額は払い戻されるため、高額にはなりません。
70歳未満の自己負担限度額
年齢が70歳未満の方の自己負担額は次の表の通りです。
申請は保険者(健康保険組合や共済組合、国民健康保険)におこないます。自身が加入している保険者に問い合わせてください。
所得区分(年収の目安) | 上限額の計算方法 | 上限額 |
---|---|---|
住民税非課税者(低所得者) | なし | 35,400円 |
~約370万円 標準報酬月額26万円以下 | なし | 57,600円 |
約370万~約770万円 標準報酬月額28万円以上 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 75,131円 |
約770万~約1,160万円 標準報酬月額53万円以上 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 112,094円 |
約1,160万円~ | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | ‐ |
70歳以上の自己負担限度額
70歳以上の自己負担限度額は次の表の通りです。
適用区分 | 外来(個人ごと) | 世帯ごとの1か月の上限額 | 上限額 |
---|---|---|---|
住民税の非課税者:所得0世帯 | 8,000円 | 15,000円 | ‐ |
住民税の非課税者:0世帯以外 | 8,000円 | 24,600円 | ‐ |
約156万円~370万円標準報酬月額26万円以下 | 18,000円(年間上限 144,000円) | 57,600円 | ‐ |
約370万~約770万円標準報酬月額28万~50万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 75,131円 | |
約770万~約1,160万円標準報酬月額53万~79万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 112,094円 | |
約1,160万円~標準報酬月額83万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | ‐ |
高位脛骨骨切り術のメリット
高位脛骨骨切り術の大きなメリットは、次の5つです。
- 股関節が温存できる
- スポーツや正座ができるようになる
- 入院期間が短い
- ほかの病気の進行を妨げる
- 悪化したら人工膝関節術に移れる
最大のメリットとして考えられるのは、膝関節が温存できることです。使用した金属プレートやスクリューもあとで取り除くため、体内に人工物が残りません。
また、スポーツや正座ができるようになることもメリットです。
手術前に正座ができないほどひざが曲がらない場合は、手術をしてもできない可能性が高いので、正座ができるようになる確率は約60%とされています。
スポーツ復帰率は約75%で、激しいスポーツができるようにもなった例もありました。
手術翌日から立ち、1~2週間で歩行もできるようになり、3~6週間の入院期間で済むことはメリットと言えるでしょう。
そのほかにも、O脚や変形性膝関節症の進行を妨げる、それでも悪化した場合は人工膝関節手術に移ることができる、などもメリットです。
O脚や変形性膝関節症は自然治癒しないため、放置しておくと症状が進行し、最終的には歩行が困難になる場合もあります。
高位脛骨骨切り術はO脚や変形性膝関節症の原因となる膝の内側への負担を軽くする手術のため、症状の進行を妨げることができます。
また、人工関節置換手術をおこなうと、元に戻すことはできません。
不具合があったり寿命がきたりした場合には再置換手術をする以外の方法はありませんが、1回目に比べると難易度が高くなります。
高位脛骨骨切り術の場合は、数年〜数十年後に状態が悪化した場合には、高位脛骨骨切り術はやめて人工関節置換手術を選ぶこともできるため、選択肢が増えます。
高位脛骨骨切り術のデメリット
メリットが多くある高位脛骨骨切り術ですが、デメリットもあります。
最も大きいデメリットは、骨が接着するまで痛みが続くことです。
人工膝関節置換手術では術後の痛みは3~4か月程度続きますが、高位脛骨骨切り術では個人差はあるものの半年以上痛みが続きます。
機能回復のためには手術の翌日からリハビリテーションが必要で、期間が長いのもデメリットです。
スポーツに復帰する場合には、約9〜11か月の期間がかかります。そのため、完治するまではストレスを感じるでしょう。
また、すり減った軟骨がもとの状態に戻り、変形性膝関節症が完治するわけではないため、人工骨が完全に接着しても痛みが残る場合もあります。
高位脛骨骨切り術をおすすめできる方
高位脛骨骨切り術は誰にでも向いている手術方法ではありません。次の条件が合う方におすすめの手術方法です。
50歳〜75歳の方
高位脛骨骨切り術は、とくに他の疾患がなければ年齢制限はありませんが、一般的には50歳~75歳くらいまでが適応年齢です。
80歳以上で手術を受ける場合、リハビリテーションが負担になる可能性もあるため大幅に件数が減り、代わりに人工膝関節置換法を選択する方が増えます。
ただし、適応年齢でもひざが10度以上伸びない方、骨密度や筋力が低下している方、関節が硬い高齢者の方にはおすすめできません。
O脚の方
高位脛骨骨切り術は、ひざの内側や外側の骨を切りO脚をややX脚よりに変えるため、O脚に対する唯一の治療方法ともいわれています。
O脚のひざは、体重の多くが内側にかけられています。
そのため、負担が関節の内側にかかりやすく、軟骨がすり減り炎症が起きやすい状態です。重症になる前に手術すると、早期回復が期待できるでしょう。
変形性膝関節症の方
変形性膝関節症は加齢や筋肉量の低下、肥満などが原因でひざの軟骨がすり減り、炎症を起こしたり液体がたまったりして痛みを感じる病気です。
O脚の方がなりやすい病気ですが、変形性膝関節症が進行してO脚になる場合もあります。
歩行時や階段の上り下り時に痛みを感じ、悪化すると歩行が困難になり、生活の質が大幅に低下してしまいます。
高位脛骨骨切り術は脛骨のゆがみを調整してO脚を矯正し、変形性膝関節症の症状を改善する方法です。
運動をする方
人工膝関節置換手術の場合、サッカーやバレーボール、バスケットボールなどの過度なスポーツは、人工関節がゆるんだり脱臼や摩耗などの合併症を引き起こしたりする危険性があるため、禁止されています。
高位脛骨骨切り術の場合は自身の膝関節が温存されるため、激しい運動を続けられる可能性が高いです。手術後も運動を続けたい方は、高位脛骨骨切り術がおすすめです。
力仕事をする方
肉体労働などの力仕事も、運動時と同様にひざに負担がかかります。そのため、運動をする方と同様、自身の膝関節を温存し可動域を維持できる高位脛骨骨切り術が推奨されます。
高位脛骨骨切り術の治療の流れ
次に、高位脛骨骨切り術を検討する方や手術を受けようと考えている方へ、高位脛骨骨切り術の治療の流れを解説します。
高位脛骨骨切り術の治療は、次の手順でおこなわれます。
- クリニック受診
- インフォームドコンセント
- 検査
- 入院
- 手術
- リハビリテーション
- 通院
1:クリニック受診
まずは、受診したい病院を選び、予約が必要な場合は予約をおこないます。
高位脛骨骨切り術は一般的には整形外科が対応していますが、すべての整形外科で手術ができるわけではありません。
また、地域によっては膝関節外科や人工関節診療科などの関節の治療に特化した病院もあります。
行きたいと病院に問い合わせるか、インターネットで検索をして高位脛骨骨切り術に対応している病院やクリニックを選んでください。
2:インフォームドコンセント
インフォームドコンセントとは、治療を受ける前に医師や看護師から手術を含めてどのような治療をおこなうのか説明を受け、内容について十分に納得して医療に同意することです。
ひざの手術は術後の生活の質を維持するために重要なため、疑問があれば納得がいく回答を得られるまで質問してください。入院が必要な期間や費用なども確認しましょう。
3:検査
手術を受ける前に、血液検査やレントゲンなど必要な検査を受けます。その際に、薬を服用している方は必ずスタッフに申し出てください。
出血を起こしやすい薬を服用している場合は、一時的に服用を中止する場合もあります。
また、手術後のリハビリテーションに必要なため、運動機能や歩行能力などを調べ、リハビリテーションについての説明も受けます。
4:入院
一般的には手術の前日に入院しますが、病歴や持病がある方は、1週間程度早く入院する場合もあります。
全身麻酔の場合は麻酔科を受診します。また、看護師より手術や術後の生活の説明を受け、入院に必要な物が用意されているかの確認も必要です。
5:手術
手術当日にも血液検査をおこない、腕に抗菌剤や他の薬を投与するためのチューブを挿入します。
麻酔は全身麻酔の場合と局所麻酔(下半身麻酔)の場合があり、麻酔が効いたら患部を消毒して手術が始まります。手術時間は約1時間半から2時間です。
まず、関節鏡を使い関節内を観察し、必要な場合は膝関節内の壊れた半月板や軟骨などの除去や炎症を起こした関節の膜をきれいにする処置をおこないます。
次に皮膚を切開し予定した脛骨の骨切りをし、曲がった骨を矯正して人工骨の挿入や金属プレート、スクリューを使った固定処置をしたあと、縫合します。
傷にたまった血液を外へ流し出す専用の管を傷口に挿入し、滅菌ガーゼで覆い包帯を巻いたら手術は終了です。
場合により、集中治療室(ICU)に入ることもあります。
麻酔が覚めて意識が回復したのち血圧や体温、足の動きを確認し、痛みの状況により痛み止めの薬の投与や麻酔の使用がおこなわれます。
6:リハビリテーション
以前はひざの手術後は安静にする対処法が一般的とされていましたが、現在では手術の翌日からリハビリテーションを始めます。
翌日に傷口に挿入されていた専用の管を抜き取ったら、起立訓練や床上での足の指や足首の運動、ひざの曲げ伸ばしなどをおこないます。
これらの運動は膝関節周囲の筋肉を強化して可動域やバランスを回復させることが目的です。
ただし、手術後はふくらはぎが腫れるため、無理をしないよう気をつけてください。
また、自己流のリハビリテーションは症状を悪化させる可能性があるため、必ず医師や理学療法士の指導のもとでおこなうことが重要です。
7:通院
安定した歩行や階段の上り下り、トイレ、入浴などが自身でできるようになると退院です。一般的には、入院から3週間から6週間で退院できます。
退院後はリハビリテーションのために定期的に通院が必要です。回復には個人差があるため自身に合った通院回数が求められます。
目安は退院後2〜3か月までは週に2回、その後は状態が安定していれば週に1回です。
1か月、3か月、6か月、9か月、1年の間隔で通院し、その後は1年おきになるところもあります。
通院期間は、手術で使用したプレートやスクリューなどの金属を取り除く手術がおこなわれるまでが一般的です。
プレートやスクリューを取り除く手術は、手術後1~2年経過した時点でおこなわれます。
使用した金属は人体に害はないとされていますが、2年経過すると骨が完全にできあがり、骨を支えていた金属は必要なくなるためです。
手術は約40分で終了しますが、手術にかかる期間は病院により異なり、日帰りを可能としている病院もあれば10日間の入院を原則としている病院もあります。
自身が通院している病院でよく確認してください。
高位脛骨骨切り術後の注意点
高位脛骨骨切り術後には、次の2つの注意点があります。
- 合併症のリスク
- 有痛性偽関節を起こすことがある
合併症のリスク
高位脛骨骨切り術を受けたあとは、次の合併症を引き起こすリスクがあります。
以下の合併症は退院してから発症する場合もあるため、予防や早期発見のためにも、術後の定期検診はかかせません。
手術や麻酔によるショック症状 | 麻酔製剤を使用したときに、臓器の血流不足が原因で心拍数の低下や極度の脱力状態、血圧の低下が起こる |
術後出血 | 何らかの理由で手術周囲の血管が損傷して出血する |
感染症 | 感染症を起こすと骨が接着しないことがある |
深部静脈血栓症、肺塞栓症(エコノミークラス症候群) | 手術中や術後に股関節より下の足の静脈内部で血液が固まり、肺に流れ込んで呼吸困難が起こる |
骨癒合不全 | 骨の接着が正常におこなわれない状態 |
術後外側ヒンジ骨折 | 手術で使用した金属とのつなぎ目の部分にある組織が損傷して骨折する状態 |
有痛性偽関節を起こすことがある
有痛性偽関節とは、取り除いた部分の骨の再生が正常におこなわれずに停止してしまい、切除部分がきれいに接着せずに関節のように可動している状態で、痛みを伴います。
再手術をおこなわなくてはならなくなるため、回復や退院までに時間がかかる場合もあります。
高位脛骨骨切り術でよくある質問
最後に、高位脛骨骨切り術でよくある質問について回答します。
高位脛骨骨切り術後の松葉杖はいつまで必要?
松葉杖が完全に必要なくなるのは、手術後約2か月経過してからです。
高位脛骨骨切り術では手術後2日目から松葉杖2本での歩行ができ、3週間後には松葉杖1本での歩行訓練を開始します。
高位脛骨骨切り術のあと仕事復帰できるタイミングは?
着席しておこなう事務職などはひざに負担が少ないため、退院後すぐに復帰できます。立ち仕事の場合は、2か月半から3か月程度です。
しゃがむ動作や重いものを持つ必要がある場合は、6か月以上経過して骨が完全に接着してからの復帰が推奨されます。
骨が確実に接着する前に無理をすると回復が遅くなることがあるため、復帰するタイミングには注意しましょう。
高位脛骨骨切り術の手術時間は?
上記でも述べたように、高位脛骨骨切り術の手術時間は1時間半から2時間です。
クローズドウェッジ法よりもオープンウェッジ法の方が30分程度早く終了します。
また、プレートを外す抜釘(ばってい)の手術は約40分です。
高位脛骨骨切り術の抜釘後のリハビリ方法は?
抜釘後は膝関節を中心に腫れるため、膝関節の可動域や膝関節筋力が低下します。
そのため、入院中から可動域を広げる訓練や筋力訓練、腫れを軽減させるための物理療法などが必要です。手術の傷が開かないように気をつけておこないましょう。
退院時には手術前の状態まで回復しているかを調べ、回復状態によりリハビリテーションが必要か、必要な場合はどのようなリハビリテーションが適切かを判断され、必要な指示がおこなわれます。
また、抜釘前から可動域を改善するトレーニングをおこなうことも大切です。
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診療時間 | ■受付 9時〜18時 ■MRI診断予約 24時間受付 |
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まとめ
高位脛骨骨切り術は変形性膝関節症の治療に近年よく採用されるようになった方法で、オープンウェッジ法とクローズドウェッジ法の2つの方法があります。
高位脛骨骨切り術の費用は高額ですが、保険が適用されます。
さらに1か月に支払う限度額が定められており、限度額を超えると超えた分の金額は払い戻されるため、一般的な収入の場合は10万円前後で手術可能です。
無理なく歩けることや適度な運動ができることは、生活の質の維持に大きな影響を与えます。
高位脛骨骨切り術は変形性膝関節症が重度になると受けることができなくなるため、早めに受診して高齢期を快適に過ごしましょう。